シングルパス・インクジェットプリンターの高速化でケアすべきポイントは?

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スキャン方式よりもシングルパス方式の方が開発の難易度が高い

家庭用プリンターでは、高画質モードで印刷すると、通常画質モードよりも印刷速度が遅くなります。
家庭用プリンターでは、プリントヘッドの往復により画像を完成させるスキャン方式を採用しています(図1)が、スキャン方式では、プリントヘッドの往復回数を増やすことで印刷基材上のドット解像度(1インチ当たりのドットの数)を上げて、高画質な出力を実現します。この方式では、プリントヘッドの往復方向には印刷基材は動かず、設定された印刷速度に応じてプリントヘッドの往復回数だけが変わるので、往復回数を減らして高速印刷を行っても、印刷基材とプリントヘッドの相対速度は常に一定です。

図1 スキャン方式とシングルパス方式

しかし、シングルパス方式では、高速印刷を行う際には印刷基材の搬送速度を上げる必要があり、例えば、印刷基材の搬送速度を2倍にすると、図1に示すように、1倍速のときに比べて2倍速ではドットが間引かれて解像度は低くなります。この時、印刷基材とプリントヘッドの相対速度は上昇します。
本例では、1倍速、2倍速ともに、スキャン方式とシングルパス方式とで「ドット配置」は同じですが、印刷基材とプリントヘッドの相対速度の上昇は画質の劣化を引き起こすことが多いため、結果、2倍速での画質を比較すると、シングパス方式はスキャン方式よりも劣ってしまう恐れがあります。
このようにシングルパス方式では、スキャン方式と比べると印刷速度の高速化に向けた開発の難易度が上がります。
では、シングルパスで印刷速度を高速化する際に考慮すべきポイントにはどのようなものがあるのでしょうか。

印刷速度に応じて増加する特性値、減少する特性値を知っておく

印刷速度の変化により、印刷基材とプリントヘッドの相対速度が変化したとき、ドット配置はどのような影響を受けるでしょうか?
インクジェットでは、 図2のようにプリントヘッドから液滴が吐出され、印刷基材に着弾することで、ドットが形成されます。搬送速度が速くなると、液滴ごとの空中にいる時間(=フライト時間)のばらつきによる基材搬送方向のドットの位置ずれが、その速度変化の比率だけ大きくなります。

図2 基材搬送方向のドット位置ずれの模式図

フライト時間のばらつきは、ノズルごとの吐出速度がばらつく場合や、曲面状の基材に印刷する際のように基材とヘッド間の距離がノズルごとに異なる場合に発生します(図3)。

図3 曲面状の基材への印刷

そのほか印刷速度の増加に応じて増加する特性値は、プリントヘッド近傍を流れる風の強さや、基材搬送系の運動エネルギーなどがあります。速度の2乗で増える運動エネルギーによる影響は、過去の記事で登場した「振動ムラ」として現れることもあります。またロール紙搬送では、印刷速度に到達するまでに掛かる時間が延びることで、ヤレ紙が増えてしまうことも懸念されます。

一方で、印刷速度の増加に応じて減少する特性値には何があるでしょうか? 
まず、「隣り合うドットが着弾するまでの時間差」です。ドットが基材へ定着する前に隣のドットが着弾することで、色味の変化などの品質劣化が起こることもあります。

さらに印刷品質への影響が大きいものとして、例えば印刷の後工程にあたる「乾燥工程の時間」が挙げられます。基材搬送速度が上がることで、印刷物の乾燥時間は不足します。乾燥不足は、基材の変形やインクの裏写りなどを引き起こし、特にシート紙を扱う枚葉機では、印刷後の基材が直ちに積載されるため、乾燥不足は深刻な問題になります。

このように、印刷速度の増加に伴って増加する特性値と、減少する特性値を理解しておくことで、印刷機の高速化に向けた開発時にケアすべきポイントが抽出しやすくなります(表1)。

表1 シングルパス方式の印刷速度に伴い変化する特性値の例

増加する特性値 減少する特性値
基材搬送方向のドット位置ずれ量 隣り合うドットが着弾するまでの時間
プリントヘッド近傍の風の強さ 乾燥時間
基材搬送系の運動エネルギー量 検品時間
印刷速度に到達するまでの時間
(ロール紙搬送)
一定量積層されるまでの時間(枚葉)

Jet Pressでも印刷速度の向上に数年費やしました

上述のように、印刷品質を維持したまま印刷速度を向上させるためには、開発の初期段階でさまざまな印刷特性について考慮しておく必要があります。以前の記事では、「吐出周波数が2倍のプリントヘッドを使っても印刷速度を単純に2倍にできるとは限らない」ということをご紹介しました。今回の記事では印刷速度の向上には、より多面的な観点からの対策が必要であることをご理解いただけると思います。

実際に富士フイルムでも、印刷速度が2700枚/時の デジタルインクジェット印刷機「Jet Press 720S」を2014年に発売後、同3600 枚/時の「Jet Press 750S」を2019年に発売するまでに、約5年の歳月を費やしました(図4)。もちろんこの間、インク供給系、プリントヘッドへの印刷基材の衝突防止機構、検品機構などさまざまなユニットを改良しており、単純に印刷速度の向上だけに約5年を費やしているわけではありませんが、使用するプリントヘッドの見直しを含めて、システムを最適化するためには数年を要しました。

図4 Jet Press の販売年 と Samba JPC の販売年

これらの改良時に得た知見・技術は、インクジェットコンポーネント 「Samba JPC」(図4)に生かされており、皆様のインクジェットプリンターの開発で「Samba JPC」をお使いいただくことにより、開発工数を削減することが可能です。
また、「Samba JPC」を用いた開発についてのコンサルティングも実施していますので、ぜひご活用ください。

富士フイルムは、「Samba JPC」を通じて、御社の開発を効率化し、高解像度シングルパス・インクジェットプリンター開発、およびインクジェット市場の拡大と発展に寄与したいと考えています。ぜひご期待ください。


「Samba JPC」を通じて私たちの知見・技術を活用いただき、御社の開発を効率化することで、プリンティングのデジタル化を一緒にリードし、インクジェット市場の拡大と発展に寄与したいと考えています。ぜひご利用ください。


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